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よみもの

2024-10-18

愛のたまご

指で半分に割って果肉を押し出すと一口で食べられる、そんな食べ方のキウイフルーツがあるらしい。

その名も「キウイのたまご」。別名「さぬきキウイっこ」。表面の皮に毛が少なく果汁たっぷりで柔らかいことから、指で簡単に押してひと口ゼリーの様に食べることができる。小粒で食べやすく、また、糖度が高く抜群の味わいで、近年人気の品種だ。

猛暑到来の7月、そんな話を聞きキウイを専門栽培する「キウイバードグループ」のひとつ「有限会社キウイバードコーポレーション」に向かう。香川県善通寺市に拠点を構えるこの会社は、多種多様なキウイを栽培しているキウイ専門の企業であり、その存在は全国でもかなり珍しい。

キウイバードコーポレーションは瀬戸内海に近い山の上にある。車を走らせながらふと海側を見下ろすと、瀬戸内海に反射する日差しが一面をキラキラと輝かせていた。期待を後押しする絶景だ。

車を走らせ早4時間。京都から長旅の目的地に到着すると、代表の島田満沖(しまだみつおき)さんが出迎えてくれた。

早速キウイ畑に足を踏み入れると、これぞまさに壮観。鈴生りのキウイが太陽に照らされ輝いてるのだ。キウイ収穫のピークは10月下旬であるが、今はまだ7月。それにも関わらず畑には沢山のキウイがすでに実っていた。

島田さんがキウイに出会ったのはおよそ40年前。もともとビワ農家の三代目であったが、香川県オリジナル品種である「さぬきキウイっこ」に出会うと、その味に惚れ込んだ。すぐさまキウイ栽培をはじめ、今では7万平方メートル(東京ドームの約1.5倍)の畑を持つまでに。天候、風速、風向きなど、キウイのためだけを考慮して設計された畑はまさにキウイの楽園だ。

島田さんのもとへは、そのキウイ栽培への情熱と技術に惚れ込んだ若者が全国から集まる。キウイバードグループの平均年齢は40歳であり、日本では珍しい若手が活躍する農園だ。「美味いものを届けるというのがフルーツ農家の使命。プロである以上はね」と語る島田さんの瞳には、熱意が溢れていた。

最高に美味しいキウイを栽培するためには、“畑が何を求めているのか”を察知する必要があると島田さんは言う。

葉が萎びていれば、水分を必要としている。これは農業素人の私でも理解できるが、実際に木の些細な変化に気づくのはプロの技だ。その他にも、不足している栄養素を知るには葉脈の浮き具合を見る。土壌環境はミミズが教えてくれる。畑に日がさすと木漏れ日ができるが、この木漏れ日の差し方で畑が窮屈かどうか分かる。窮屈であれば木を切るが、手塩にかけた分、断腸の思いである。

言葉を発することがなくても、畑はいつも“サイン”を出していると島田さんは言う。このサインに気づけるのは、長年の栽培経験で得た技術に他ならない。

ぶどう畑で実に紙袋が被せられている光景は想像に容易い。しかし、キウイに紙袋が掛けられている光景を見たことはあるだろうか。そもそも、キウイ畑を見ること自体、稀ではないだろうか。

島田さんの畑では、キウイに紙袋が掛けられていた。これは果実を気候や害虫から守り農薬を減らすための工夫であるが、キウイにおいてこの栽培方法は全国的にも珍しいのだそう。

ふと足元を見ると、畑の至る所にパイプが張り巡らされている。よく見てみると、このパイプから水が出る仕組みになっていることに気づく。これも、畑の温度を下げるために島田さんが考案した独自の栽培方法だ。

“畑と会話する”。つまり、ちょっとした木や土の変化から、畑全体が何を求めているのかメッセージを受け取るということ。この研ぎ澄まされた感覚を得るには、どれだけの努力と時間を要したのだろうか。極めたいと思えるものに出会えること、その情熱をかけ続けること。これは本当に凄いことだと思う。凡人にはできない、天才のそれである。

広いキウイ畑を巡っていると、島田さんの工夫が至る所に見えてくる。技術も素晴らしいが、それ以上に、キウイへの愛情がひしひしと伝わってくる。島田さんにとってキウイは我が子のようなものだろう。人に個性があるようにキウイにも個性があり、実に表情豊かである(らしい)。キウイたちそれぞれに適した育て方をすることが、難しくもあり楽しいところなのだ。

この愛情いっぱいの畑の中にいる体験を、文字では到底表せないのが残念である。

私が「よみもの」を書くのは2度目となる。前回は北海道のぶどう畑を訪れ、日本各地の人や食に出会いたい気持ちを綴った。今回島田さんのキウイ畑を訪問して、この想いは増すばかりだ。産地を訪れ知ることは果実の知識だけではない。生産者それぞれに情熱とストーリーがあり、その熱に刺激を受け触発される。この体験がたまらないのだ。

私がこの記事を書く今、パリオリンピックが開催されている。世界一を目指す姿をテレビで見て、感動を受ける人は多いだろう。人が何かに向かってひた向きに進む姿を見る、この影響力は計り知れない。

産地を訪れると、この感動がそこにある。それを私は伝えたい。

[文章]業務部 三好

香川県産キウイフルーツ専作農家のキウイバード – (kiwibird.co.jp)