logo

よみもの

2024-05-17

挑戦!京都でレモンづくり

レモンサワーが好きだ。唐揚げとならビールより断然レモンサワー派だ。

市販の缶チューハイもいいが、自分でレモンと焼酎と炭酸を混ぜてつくる、このひと手間が贅沢で好きだ。

日本のレモンといえば瀬戸内産のイメージが強い。実際その通りで、瀬戸内地域だけで国産レモンの生産量の7割以上を占める。それは、瀬戸内地域の温暖な気候がレモン栽培に適しているからに他ならない。レモンにとって寒さは大敵であるため、温暖な地域で栽培が活発になる。世界各国でいうとシチリア島がレモンの名産地であることも、地中海気候を考えれば納得だ。

そんな瀬戸内レモンは、一時のレモンサワーブームの後押しもあって国内で大きな需要を得た。レモンサワーだけでなく、総菜からスイーツまで万能に使える果実であり、どこのスーパーでも売っているほど食卓になじみ深くなった。

「瀬戸内レモン」が食卓に浸透していく中、栽培面では生産者の高齢化による減少や、寒波による木の枯死など問題は年々増えている。瀬戸内レモンに限ったことではないが、日本の農業の状況は衰退の一途だ。食は生きていくために無くてはならないものなのに、厳しい現実が目の前に広がっている。

ある日、社内で新しいプロジェクトの案を耳にした。

「京都をレモンの産地にする」

京都で?京都は寒いぞ・・・。

でも、新しい事をするのは活気があって面白そうだ。

プロジェクトのスローガンは「唯一無二のレモンをつくる」。

夢のようなプロジェクトが、京都の片隅でひっそりと走り出したのを知った。

「京都でレモンを栽培して商品を作りたい」。この計画は、木津川市役所への相談からスタートした。相談するとすぐに、南山城村の道の駅と久御山市役所に話が伝わった。企業の賛同もあり、大学や金融機関にも声が掛かった。有力な生産者からも協力を得られた。

多くの協力を得てスタートしたレモン栽培のプロジェクトであるが、問題は山積みだ。京都の気候ではレモンが育たないのが通説なのだ。生産者をはじめ各方面から「京都でレモン栽培は難しい」という意見が多く出た。これまで、京都でレモンを栽培しているという話は聞いたことが無かったし、温暖な瀬戸内でさえ冬場は気温が氷点下以下となり木が枯れてしまうこともある。厳しい寒さの京都では、木が育たないという大きな問題があったのだ。

課題を解決すべく、柑橘の生育に詳しい大学の教授に相談した。すると、定植(苗床から畑に苗を移すこと)する際に北斜面を避けるといったの土地の工夫、風の避け方、定植して間もない苗木の防寒方法など、たくさんの寒さ対策に関する情報を得る事ができた。そして、「これらをクリアできれば京都でもレモン栽培は可能」と教授からの助言を聞いたとき、暗いトンネルの先に光が見えたのだ。

2018年3月に「京檸檬プロジェクト協議会」が発足した。生産者、企業、行政、大学が参加したが、それぞれ役割を超えて、栽培から収穫、商品開発、販売まで全てに参加して進めることを目指した。強みは栽培から販売先までの流れを協議会内で持っていることだ。後々、やはりこれは大きなメリットになった。

4月には京都の各地で苗木の定植を行った。1年目から順調に育つ木もあれば、夏の暑さや冬の寒さで枯れる木もあった。試験的な収穫を行い、1年目から78kgの京檸檬が出来た。生産者の試行錯誤と培った経験により、少しずつ木は育ち、花も付き、京檸檬の実は着実に増えていった。2022年には1,800kgの収穫となり、5年目を迎えた2023年には3,000kgを越える収穫となった。

温暖な瀬戸内地域ではレモンの収穫を10月から4月にかけて行う。しかし、京檸檬は寒さで実が落下したり木が弱ることを防止するため、12月までに収穫を全て行う事にした。この事が影響してか、京檸檬は華やかなグリーン調の香りを放ち、柔らかでまろやかな酸味を醸した。

5月に咲く甘い檸檬の香りが漂う白い花、秋に丸々と青い檸檬の実が木に鈴なりに実った光景、交流の場で垣根を越えて笑顔を見せる人々、これらを目の前にした時、大きな感動が生まれた。京檸檬プロジェクト協議会を通して日本全国の生産者の凄さを知った。農業に休みはない。それでも、手を抜くことなく目標に向かって日々地道な努力を重ねる姿を見たのだ。

プロジェクトを確立する事で、耕作放棄地の有効活用や新規就農支援、地域活性に繋がると分かった。道は険しく、なかなか思い通りにいかないが、「京檸檬」の可能性は無限大に感じた。困難と思われた京都でのレモン栽培も、試行錯誤すれば上手く収穫ができたのだ。

京檸檬は多くの人々に支えられて実りを迎えた。実りも嬉しいが、何よりも沢山の関わった人々との出会いが嬉しかった。

「京檸檬」はお酒、お菓子、調味料となって市場へ並び始めた。京檸檬プロジェクト協議会が一つとなり、栽培から商品化まで一貫して行う事ができた。産地創成から商品の販売までを見て、他にない喜びが募った。

今まで気にしなかったスーパーのレモン一つを見ても、実際にレモン栽培をしたことで生産者の姿を想像するようになった。すると、食材を調理する気持ちも変わる。

「果実一つも無駄にしたくない」

「美味しい料理を作りたい」

この気持ちを、もっと多くの人に感じて欲しい。

京檸檬プロジェクト協議会

宝酒造 「寶CRAFT」<京檸檬>地域限定新発売