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よみもの

2024-02-13

1200年の柚子のいとなみ

活気を帯びる柚子のイベント

紅葉シーズンの到来により、京都が観光客でにぎわう11月上旬、京都市右京区の水尾地区も、柚子の収穫作業が本格化し、活気を帯びる。


鎌倉時代から栽培されてきた歴史があり、京都でも高級品として知られている「水尾の柚子」に実際に触れ、生産者と話す事のできるイベントがある。㈱京都水尾農産・村上様の協力の下、毎年11月1週目の土曜日に開催している。各食品メーカー、食品原料メーカー、小売会社等、様々な方が参加する。全員で一つの柚子畑の収穫を終えられるよう、共に汗を流す。有難い事に、継続する度に参加者が増えている。 


参加者はJR山陰本線の電車に乗り、保津峡駅にて降車する。車で10分、勾配が急な山道を上って、紅葉した木々を眺めながら「柚子の里水尾」を目指す。水尾に到着すると「よく来てくれはった」という言葉と共に村上様に出迎えられる。沢山の参加者と挨拶を交わした後、柚子畑へ歩いて向かう。


村上様の所有する農地面積はとても広大で全部で20,000㎡もある。収穫イベントは、村上様の自宅から歩いて3分の農地で行われる。柵を開け、畑に立ち入った途端、深緑色の葉と完熟した黄金色の柚子で視界がいっぱいになる。そこには、おとぎ話の中に入り込んだかのような非現実的な世界が広がる。そして、何とも言えない水尾柚子特有の華やかな香りに包まれる。

過酷な作業の後に訪れる無邪気な笑顔

参加者は手袋と収穫用の鋏を受け取り村上様から直々に収穫の手順を教わる。「二度切り」という収穫方法だ。一度、枝部分を切った後、果実のヘタのきわを切る事により、果実表面をハサミで傷つけることなく収穫できる。手の届かないほど高い位置にある柚子は、樹に長いハシゴをかけて収穫する。

 
3cmを超える鋭いトゲのある柚子を収穫するのはとても危険な作業だ。使用する手袋は溶接用の革製の分厚いものであるが、この手袋さえもトゲは貫通する。頭を守るために帽子をかぶるのも必須となっている。それに、地面にトゲのある枝が落ちている事が多々あるため、間違っても高所から地面へ飛び降りてはならない。移動時はトゲで怪我をしないよう慎重に足を動かし、傷つけないよう採った柚子を丁寧に肩掛け籠に入れていく。この作業は、見た目以上に過酷なものとなっている。


最初は不慣れな作業で戸惑う参加者も時間が経つにつれ、想像以上のスピードでコンテナを満杯にする。ただ、これを農地から運び出すのも結構な重労働である。皆で力を合わせて作業を進める。自然の中で作業する参加者は、大変ながらも子供の頃に戻ったかのように無邪気な明るい表情を見せる。イベント中は終日、参加者の笑い声で畑が賑やかである。

収穫と散策と疲れが吹き飛ぶ柚子の酒器

朝からの作業で体力がだんだん消耗されてきた頃にお昼休憩となる。秋の日差しが樹と樹の間から射す柚子畑の中、作業に励んだ者同士で集まり食べるお弁当はまた格別である。自然と会話が弾む。


休んで体力が回復したら常連のイベント参加者は午後も柚子の収穫を進める。「収穫がとにかく楽しい」と週末のアクティビティのように作業を楽しむ人がいれば、「村上様の一助になりたい」と黙々と迅速に作業される人もいる。このイベントで収穫した柚子は後日、搾汁されて果汁と皮に分けて冷凍保管される。


初めてのイベント参加者は、村上様に案内されて山道を下った先にある広大な農地を見学する。平地にある畑もあれば、山を切り拓いて作られた斜面の畑もある。実際に足を運ぶと、年中休み無く、全ての柚子畑を管理されている村上様の体力の凄まじさを感じさせられる。現在も水尾柚子の生産量を増やすために栽培面積の拡大に取り組まれている。午後の作業が終わり、収穫イベントは終了となる。


夜には希望者が集い、さらに親睦を深めるための食事会が行われる。村上様と共に作業に励んだ参加者へ敬意をこめて皆で乾杯をする。そのお酒の飲み方がなんとも素晴らしい。収穫したての柚子を台所へ運び、果肉部分をくりぬいて、柚子果皮の器に日本酒を入れて飲む。華やかな柚子の香りと共に楽しむ日本酒は口に含めば疲れが一気に吹き飛ぶ。是非とも一人でも多くの方に、京都水尾の柚子の酒器に好きな飲み物を入れて味わってほしいと思う。

後継者と地域の発展を目標に掲げる

当初、一企業の社員研修として始まった水尾柚子の収穫行事は、多くの企業の賛同を得て、50名を超える参加者が集まるイベントに発展した。10年以上も開催が継続できたのは、他ならぬ、村上様をはじめ奥様、お子様の支えのおかげである。


2022年は全国的に柑橘が不作となり、水尾柚子も稀に見る大凶作だった。収穫量は例年の1/3となり、村上様もかなり苦労された。しかし、2023年には樹に鈴なりの柚子を見る事ができた。降雨量の少ない年で収量は思うように増えなかったが、それでも前年の4倍量の柚子がシーズン通して収穫できた。


天候に左右される果樹栽培の難しさを学び、農作業の重労働を知る。毎年、このイベントに参加する事で生産者が大切に育てた果実を入手できる喜びを知る事が出来る。そして、参加者にとって、京都の歴史ある果実に触れ、生産者と密に関わりが持てるこのイベントは心を動かす良い経験となっている。


今後、イベントの規模が今以上に大きくなり、消費者の皆様の参加も計画されている。そうなることで、新しい後継者が生まれるきっかけとなる事、水尾柚子の生産量が拡大して水尾地域が発展していく事を目標に掲げて、このイベントは運営を続けていく。

[文章]品質保証部 尾島