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よみもの

2024-02-13

テロワール、初体験

ぶどうとワインの香りが出迎えてくれる畑

人のこだわりに触れることはとても好奇心を触発される瞬間だ。
小樽運河から車で30分の距離にある平川ワイナリーに向った。
車から降りた途端、広大なぶどう畑とワイナリー醸造所からぶどうジュースとワインが入り混じったような香りが出迎えてくれた。
2022年は豊作年でぶどうの収穫量は例年の1.6倍となった。様々な品種のぶどうを栽培されているが、私達はケルナーを収穫させて頂いた。


ケルナーは白ぶどうの品種で、見た目はマスカットのような黄緑色をしている。試食をさせて頂いたが、スーパーで売っているぶどうのようにとても甘くて美味しかった。
ぶどうは身長160cmの私の太ももぐらいの高さに実っているが、椅子を用いて収穫を行なう。椅子にはキャスターが付いており、座りながら横移動を行なう事ができた。座る部分にはお茶等を収納することも出来る優れものである。


青空の下、もくもくと沢山実ったぶどうを皆とはさみで収穫した。
はさみは特殊なもので、刃先の180度平行した指穴の先にピンセットが合体されている。ぶどうの枝をはさみで切って収穫した後、房に紛れ込んでいるナメクジ等の虫や腐食部をこのピンセットを用いて除去していく。今まで見たことのない道具を手にワイン用ぶどうの収穫方法を教わり、普段食べているものもどのような環境でどのように育てられているのかを私自身が無関心だったと気付かされた。
収穫中に手の指を虫に刺された事に気付かず、翌日に手がパンパンとなった。とても痛かったが、それも良い思い出となった。ジブリの映画で見るような山々が遠くに連なり、あたり一面ぶどう畑の中で過ごす時間はとても気持ちの良いものだった。

五感を震わす体験

収穫は日本全国のみならず海外からも参加されているボランティアと行なった。ボランティアの方々にどういう繋がりで参加されているのかお聞きした。
「平川さんの奥様の友達の友達から話を聞いて・・・」
「インスタグラムでボランティアの募集を見たのがきっかけで昨年に続いて今年も来ちゃった」
「あまりにも平川さんのワインが美味し過ぎて関西から来た」
今まで繋がりのない人と出会えることも大きな魅力である。このような出会いや自然豊かな北海道の大地で収穫体験を行えることは貴重な体験であった。


平川ワイナリーは2015年に設立された。平川様はワインの本場でぶどう栽培やワインの醸造を学び、日本に帰国後、ソムリエをされていた。私が平川様とお話出来たのはわずかな時間だったが、ここに必ず再び来たいと思う程に惹き付けられた。この気持ちは、言葉で説明出来るものではなく、実際に体験した人にしか分からないと思う。
ボランティアに毎年参加されている方がいる。近年、SNSや流通網の発達により現地に行かなくても生の情報を得る事ができるし、各地で作られたものを全国各地で食べることができる。とても便利な世の中であるが、現地に足を運ぶことで五感を震わす体験に出会えることを忘れてはいけない。

時間の有限性に気付く

平川様自らが設計されて完成した第二醸造所について説明をお聞きしながら見学させて頂いた。私の醸造所の概念を覆すほどに木の温もりを感じる2階建ての美しい外観である。
作業効率性を重視しつつ冷房を年中必要としない空気の流れが計算された建物となっている。2階は倉庫となっているが、奥に小さな部屋があった。そこには難しそうな本や手帳があった。手帳を拝見させて頂いたのだが丁寧さがひしひしと感じられた。


見学を一通り終えた後に外に出た。海外から参加されているボランティアからの質問に平川様は英語で対応されていた。フランスで修行されていたこともありフランス語も堪能である。語学力やワインに関わる知識、磨き挙げられた感覚やデザイン設計とまさに博学多才である。
私は、平川様のスキルやこだわりに触れることで、特定の知識や技術を会得したい、突き詰める程に好きな事を見つけたいと触発された。誰もが限れた時間やものを大切にしたいと思うが、沢山あると感じたものや忙しい時の中では、その気持ちが薄れてしまう。
人に与えられた時間は、誰もが同じである。平川様は多くを習得されている。私は何をしてきたのかと時間の有限性に気付かされた。


まずは、これだけこだわり抜いて作られた平川ワイナリーのワインを飲んでみたい。丁寧に月日を掛けて出来上がるワインの過程に触れた事で、じっくりと味わいたい気持ちが高まった。今の私には高価なワインであることから特別な日に飲めることを楽しみにしている。

知らない食を知りたい

幸せなことに日本には沢山の食が溢れている。
平川ワイナリーのワインみたいに大切に作り出された食が私の知らない所に沢山あると思う。それらの食を知り、作る過程や作り手の思いを知る事で、食の見方が変わる。
仕事の休憩中、同僚が「あとご飯を食べられる回数は1日3食×365日として、一体、何歳まで生きれるかな・・・。私が思っているほど数は多くないかもしれない」と口にした。
その時、私はハッとしたと同時に“美味しいものを食べたい”と思った。
会社に入社してはじめて日本各地で柑橘が育てられていることを知った。今回、平川ワイナリーの素晴らしいワインに出会った。日本全国を旅して、平川ワイナリーのような食や人ともっともっと出会っていきたいと感じた。一つでも多く、そのネットワークを増やし、拡大していくプラットフォームに会社がなれればと思う。

[文章]業務部 三好